ブレインバンクとは
ブレインバンクの必要性
精神疾患の研究を行うに際して、患者さんの症状や薬の効き方を観察する以外に、モデル動物を使うという方法がとられてきました。しかし、ヒトは、あくまでもヒトであって、動物モデルの脳では解明できない機能を多数持っています。たとえば、「(言語機能のない)ネズミには、幻聴がおこるの?」「マウスの幻覚妄想状態って?」といったような疑問を解決することは簡単にはできません。 精神神経機能に深い関係がある、ドーパミン、ノルアドレナリンなどのはたらきはヒトの脳では発達しており、また、神経の発達に関係する物質や遺伝子が精神機能や精神疾患の病態や治療を考える上で、重要であることが知られるようになりました。 病気の症状や脳そのものの働きには個人差があるので、多くの患者さんのご協力を得て研究を進める必要があります。したがって、研究に使用する目的で多数の脳をバンクとして収集・保管する必要が生じてきます。
世界のブレインバンクの流れと現状
欧米諸国では早く(1960~1970年代)から死後脳バンクの取り組みが行われてきました。診断・倫理基準、脳の集積・保存法、運営方法などを一定にして、精神神経疾患の死後脳を集め病態の本質に迫る研究を行おうとする試みが行われてきたわけです。このようなシステムには、当事者、家族が積極的に参加し、研究者と連携をとることが必要だということも分かってきました。脳の病気で苦しむ次の世代へ希望という贈り物をする、との内容のギフトオブホープ(Gift of hope)という精神に現れているように、生前の献脳登録の普及活動も活発です。 図1で現在活動中の世界の主要なブレインバンクをご覧下さい。米国では100以上のバンクが運営され、欧州でも正常対照脳1000例以上を保有するオランダNetherlands Brain Bank(NBB)を始めとし大規模なバンクがいくつかありますが、多くはアルツハイマー病、パーキンソン病など神経疾患死後脳が中心で、統合失調症死後脳が十分に収集されているバンクは意外に少ないのです。統合失調症脳を収集し、実際にそれを用いて研究を展開している主要バンクを表1にあげました。
Brain Bank | 総数 | 統合失調症数 | |
米国 | Harvard Brain Tissue Resource Center | ≧5,000 | ≧100 |
National Neurological Research Specimen Bank | 2,000 | 61 | |
The Stanley Brain Collection and Neuropathology Consortium | ≧300 | 不明 | |
NIMH Brain Bank Collection | ≧300 | 不明 | |
Maryland Brain Collection | 不明 | 不明 | |
Mount Sinai School of Medicine | 不明 | 不明 | |
欧州 | MRC Brain Bank | 1,130 | 36 |
German Brain Bank | 不明 | 不明 | |
University of Wurzburg | 不明 | 不明 | |
オーストラリア*) | メルボルン精神医学研究所 | 82 | 130 |
シドニー大学神経病理 | 230 |
*) いずれの機関もNational Health and Medical Research Council Network for Brain Research into Mental Disordersの Brain Bank Consotiumに登録している
日本のブレインバンクの現状
日本では精神疾患の死後脳バンクとその研究は欧米諸国に比較して大幅に立ち遅れています。国立精神・神経医療研究センターにデータベースを置き、国立病院機構の各病院に標本を保管している、脳組織リサーチリソースネットワーク(脳組織RRN)が日本最大の死後脳バンクシステムで、統合失調症は総計70例以上を保管していますが、主として神経筋疾患や認知症の研究が行われ、統合失調症や双極性障害などの精神疾患の研究は少数です。個々の研究者が死後脳を集めて研究を行っているだけのことが多く、系統的な精神疾患死後脳バンクは設立されていないのが現状です。 このような立ち遅れの原因として、日本の精神医学の歴史の中に、1960年代から80年代にかけて患者を対象とした生物学的研究を敵視する反精神医学運動が存在し、研究者がそれに適切に対処していないこと、死後脳についての捉え方、倫理・宗教観が欧米と大きく異なること、精神医学研究ことに生物学的研究に当事者や家族の積極的参加を求める発想と伝統が乏しいことがあげられます。しかし、現在では生物学的研究の重要性は、精神医学研究者だけではなく広く一般の方たちにも理解されるようになってきています。
福島医大ブレインバンクの発足
平成9年(1997年)12月に精神疾患死後脳研究について、福島県立医大倫理委員会の承認を得て、福島医大神経精神医学講座を中心とした精神疾患死後脳研究運営委員会が発足し日本初となる系統的精神疾患死後脳バンクが誕生しました。現在県内の13病院(総合病院精神科、精神科病院)が死後脳収集ネットワークに登録しています(図2)。
各登録病院にコーディネーターとして運営委員(すべて精神科医師)がおり、患者登録・診断、脳収集作業への協力、当事者、ご家族の方への啓発活動などを展開しています。定期的に運営委員会が持たれ、より体系だった円滑な運営システムについて定期的に検討を行っています。運営委員会の活動は、患者家族代表と学外学識経験者からなる審議委員会により常時審査を受け、当事者の立場に立って倫理面が十分に配慮され、かつ当事者自身の利益になるような活動がなされるようになっています。
東北精神疾患ブレインバンク 生前登録
当ブレインバンクは透明性を大切にしております。そこで死後脳の提供は皆様方が亡くなる前に意思表示をしていただくことを大切にしております。研究には精神疾患をお持ちの方、またお持ちでない方の組織の提供がほぼ同数あることが必要です。これまで病院に入院したときに、あるいは外来で通院したときに当事者やそのご家族が資料をご覧になって生前登録をなさってくださったり、健常者の方が何らかの形で社会に貢献したいと考えられて登録をしてくださったり、医学研究に貢献できればと登録をしてくださった基礎医学の研究者や医学生の親御さんがおられたり、その協力には様々な動機をお持ちです。特に当事者やそのご家族には家族中で大変な思いを経験なさり、将来、精神科医療がもっと進歩していて、さらに良い薬や治療を受けられることを願いながら登録してくださっておられます。そうした皆様の善意によって死後脳バンク研究は支えられております。目下のところ、福島県内や福島県隣県からの御遺体搬送はつばめ会員のご支援により福島医大おいて提供いただいておりますが、九州地方や京都や北海道など遠方の地から生前登録をしていただいている方々のご意思を受け取れるよう近隣の施設にお願いしております。登録をすることによって死後脳研究の必要性を訴えるということを表現してくださいますよう、全国の皆様からのご意思をお待ちしております。
資料請求
資料をご希望の方は、事務局へお名前・住所・電話番号をお知らせください。「意思表示カード」や「同意書」などを含めた資料を送付させていただきます。
東北精神疾患ブレインバンク
〒980-8573 宮城県仙台市青葉区星陵町2-1
東北メディカル・メガバンク機構5階555室
東北大学災害科学国際研究所災害精神医学分野
TEL 090-7322-8213
事務局 平日9時~16時
上記以外の時間は緊急時のみの対応となっておりますのであらかじめご了承下さい
E-mail info@fmu-bb.jp
皆様への送付資料
東北精神疾患ブレインバンク生前登録者数
222名 (令和6年8月)
・ 福島県内 65名 | 患者(男 19名、女 23名) 健常者(男 10名、女 13名) |
・ 県外 157名 | 患者(男 43名、女 78名) 健常者(男 14名、女 22名) |
東北精神疾患ブレインバンク生前登録者数
222名 (令和6年8月)
・ 福島県内 65名 | 患者(男 19名、女 23名) 健常者(男 10名、女 13名) |
・ 県外 157名 | 患者(男 43名、女 78名) 健常者(男 14名、女 22名) |
実際に亡くなった後の搬送の流れはどうなるのですか?
登録されている方が亡くなられた後の搬送の流れについて具体的にご説明します。
ご家族または主治医から登録者が亡くなられたとの連絡(24時間on call体制です)を私たちが受けると、ブレインバンクが契約している葬儀会社が亡くなられた病院までお迎えにあがります。ご遺体は(公)福島県立医大病理解剖室等、こちらの協力施設まで搬送され解剖が始まります。病理解剖のためのご遺族承諾書などの申込み書類が揃い、解剖申込みを行ってから、解剖時間が決まります。予定では当日を目安にしておりますが病理解剖申込みの時間帯(平日9:00 ~17:00、土曜日9:00~15:00)以外、または日曜祝日は病理解剖を行う事が出来ないので解剖は翌日以降になります。
また全身解剖は5時間程度、脳解剖のみでは2時間程度かかります)。解剖は病理医が執刀しますがブレインバンク担当の医師も立会います。解剖が終了すると再び葬儀会社によりご遺族のお宅まで搬送されることになります。搬送にかかる料金は、ブレインバンクが全て負担いたします。
NPO法人としてスタート
死後脳バンクとDNAバンクの事業を安定して継続的に進めるために必要であると考えまして両バンク運営委員会が決定して申請しておりました「特定非営利法人精神疾患死後脳・DNAバンク運営委員会」(略称、PMB・DNAバンク)が、平成18年4月19日に福島県から正式に認可され、6月に登記を済ませました。NPO法人化いたしましたので、これまで以上に真摯に事業の推進に邁進していきたいと思います。NPO法人化できたことによりまして、事業の主体に対する世間からの信頼が増すものと期待されます。こうした信頼に応えることができるように、自覚し緊張して参りたいと思います。なお、ブレインバンクの賛助会「つばめ会」とDNAバンクの賛助会「レインボー・ブリッジクラブ」は会として一括NPO法人PMB・DNAバンク会員となります。この点につきまして平成18年6月の定例つばめ会・レインボーブリッジ合同総会にて承認されました。
NPO法人PMB・DNAバンクの事務局の正式な所在地は福島医大ではなく福島市内の別の場所に置かれておりますが、事務局員は医大・神経精神医学講座へ出張して仕事をしております。事務局へのご連絡は下記のいずれかにしていただくようにお願い申し上げます。
事務局:東北精神疾患ブレインバンク(事務連絡先)
事務局 平日9時~16時
上記以外の時間は緊急時のみの対応となっておりますのであらかじめご了承下さい
特定非営利活動法人定款
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